「ちょっ───たいちょ、待っ」

我ながら何故こんなにがっついているのか分からない。







◆ねったいナイト


仕事を終えて、ヒヨコ隊の訓練を終えた嶋本を待って、二人で基地を後にした。

奢る約束をした晩飯が久しぶりに軽く呑もうという話になって、食事がてら行きつけの小料理屋に行く。

嶋本はビール、自分は冷酒を呑みながら小鉢をつつく。

聞いてくださいよと意志の強さを主張する眉をきゅっとしかめて、嶋本の口から零れるのは出来の悪い教え子たちの話。というか、愚痴。

まぁ、無理もない。連日ヒヨコ達を怒鳴りつけている所為で、喉だってぼろぼろだ。

いつもより掠れた声で、でも零れるのは出来の悪い教え子たちの話。

一生懸命訴える話に相槌を返しながら、この、胸の中に燻る言いようの無い違和感というか、不快感というか、何なのだろう。



…本当は分かっているのだ。これは、嫉妬 と名前がつく感情だ。

最初は、嶋本との時間を共有し、あれだけ痛めつけられてなお尊敬とそれを超える好意を隠そうともしないヒヨコ達に対してかと思ったのだが。

どうやら、違うらしい。

ヒヨコ達に警戒心の欠片もない無防備な嶋本に、だ。

毎年ヒヨコ研修が始まると、『今年もまたおりますよー、隊長信望者が。神兵のとりこが!』などと言って笑う嶋本は、知らないんだろう。

お前の信望者だって、多いんだ。

しかも今年は全員。お前曰く『神兵のとりこ』より多いじゃないか。

教えてやる気はさらさらないが。


*******


「…─んなんですよ。て、聞いてます?隊長」

「あぁ、聞いている」

嘘やー絶対聞いとらんかったー

本日三度目のご機嫌斜め顔は、アルコールのせいでほんのり頬が赤い。

「さっきからヒヨコの話ばかりだと思っていただけだ」

「あ、すんません。なんや愚痴みたいになってしもて」

「そうじゃない。大変だな、と。…専門官曰く、俺は教官向きじゃないらしいから、よくわからないんだが」

「確かに…!さすが専門官、ええこと言う!」

「どういう意味だ」

「まんまっす」

無言でその癖っ毛を乱暴に混ぜると、いたずらがバレた子供のような顔で笑う。

嶋本は、二人きりの時にはよく笑う。



「ほなら、そろそろ帰りましょうか」

おっちゃんおあいそ。言いながら財布を出そうとする嶋本に

「泊まっていくか?」

そう聞いたら、少し驚いて、それから嬉しそうに笑った。


*******


インドネシアに指導員として行ってこないか。

基地長に呼ばれて入室し、そう打診されたのは二週間ほど前だ。

派遣の時期や期間はまだ未定だと言われた。副隊長である嶋本も、同席していた。

俺は、是、と答えた。

留守業務的には問題ないか、なんとかなるかと聞かれ、嶋本も是、と答えた。


「失礼しました」

基地長室を出て並んで待機室に戻る途中

「インドネシア、すか…遠いっすねー…」

俯きがちに呟いて、はは と笑う。

しまもと。

名前を呼ぼうとしたら、それより先に顔を上げて俺を見た。

まっすぐに視線が繋がって、瞬間、にっと笑う。

「おめでとうございます!すごいやないですか!さすが真田隊長や、副隊長の俺も鼻高いっスよ!」

どれくらい行くんやろ、飯旨いんかな、暑いっすよね。

「そうだな」


       『…遠いっすねー…』


呟いた言葉が胸に残った。


*******


それきり、嶋本の様子は変わらない。

いつもどおり、よく笑い、よく怒り、きちんと仕事も片付けて、二人きりになっても。

いつもどおり、よく笑う。

別にどうして欲しいわけでもない。

命ぜられた職務を遂行するのが我々の仕事だ。

なのに。

どこかで。

どこか、ほんの少しのちいさな あな が

寂しい、と呟くのは


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 >>>2P




やっと続き書けた…!うふふふふごめんなさい先謝っときます