ドアを閉めて鍵を掛けるなり、靴も満足に脱ぐ前に掻き抱いてキスをした。 「ちょっ───たいちょ、待っ」 呼吸の合間から、嶋本が一時停止しろと言う。 出来ない話だ。 我ながら神がかり的な速さで嶋本の着衣を脱がしにかかる。 「待って、待ってたいちょっ!や、せめてベッド行きましょうー!」 必死に抵抗する腕を脚を唇を、封じ込めてしまえ。 どこにも行けないように。誰にも見せないように。 我ながら馬鹿らしい妄想を。 ******* 嶋本は。 研修が終わっても、きっとヒヨコ達に変わらず心を砕くのだろう。 笑って、怒って、励まして、心の底から心配して。 しかし俺は。 嶋本が笑っているそこにはいないのだ。 是と言ったのは自分だ。 分かっている。 理不尽な、いっそ暴力と言っていいほどの心で今、嶋本を貪っているのも自分。 分かって、いる。 理性と感情は別のものだということを忘れていた。 今まで押さえ込んだことなどなかったからだろうか。 ******* バチン。 両の頬に衝撃が走り、目にチカチカと小さな火が跳ねる。 一瞬なにが起こったのか理解できずにいると、俺の下で、意志の強い目が怒っていた。 「…しまもと」 両頬を掌で挟み込んだまま、ぐい、と引き寄せられる。 「そんな、」 鼻先を擦り合わせるような距離で。 「死にそうな顔せんといてください。どこにも行かへんから」 「…!」 一瞬で頭の中がスパークした。 脳髄に揺れが起こって、肘からかくりと力が抜けた。 「わ、っとと」 耳元で、急に体重を預けられて慌てた声がする。 強く抱き締めたら、少し躊躇する気配がして、頬を挟んでいた両手が首から後頭部に回された。 頭を抱きこむようにされて、嶋本の首筋に顔を埋める。 「行くのは、俺だろう」 水分を欲して乾いた声は、自分の声なのにまるで他人のそれのようだった。 「そうっすね」 「…俺なんだ」 「でも、なんや隊長のほうが置いてかれるみたいな顔、してはります」 「そうか?」 「はい」 顔を見たい、けれど見られたくない。 「つーか俺、全っ然、平気やないですから」 「…そうは見えなかった」 「公私混同すなて教えとるほうが混同出来る訳あらへん」 いつも通り笑っていた。今日も。 「ぶっちゃけ大反対や。なんでバディとセットやないんじゃボケ。誰が真田語の通訳すんねん」 「……真田語……」 「なんでたいちょやねん…」 きゅ、と俺の頭を抱きこむ腕の力が少しだけ強くなる。 目の前にあった鎖骨を甘く食んだら、咎めるように耳たぶを掴まれた。 「ヒトが真面目に話しとる時にほんまこのおヒトは…(怒)」 「あんまり俺を甘やかすな、シマ」 耳を引っ張られる格好で顔を見上げたら、不思議なものを見るような目をして。 「俺が甘やかさんで、誰がアンタを甘やかすんですか」 「…ベッドに、行こう」 さっきからそう言うてるでしょ。 唇に噛みつきながら抗議の声。 つくづく、敵わない。 ******* 「もっ…、あ!あ、そん、な…っっ──、たいちょ、や、や、駄目っ…!」 熱に浮かされるように、とろりと溶けた目で、荒い息で、鼻にかかる聲で、うわごとのように、むつごとのように。 「真田、さんっ…!」 もっと名前を呼んでほしい。 一年でも十年でも痕が消えないほど、爪を立ててくれ。 我慢とかそういうものはとっくの昔にする気すらなくて。 このよく日に焼けた肌にただ、自分の痕跡を刻みたいだけ。 何も考えたくはない。 ただ気持ちよくして、気持ちよくなって、 汗だくでフタリで抱き合いたい。 ******* 「まった、むちゃくちゃしてくれはりましたねェェェ」 だいたい俺は明日午後から防災基地やけど3隊は当直でしょうが!もう2時やで! 弛緩した体をシーツに預けて、じろりと睨み上げる目が怒っている。 嶋本が自分を受け入れてくれるのは自分たちが同じ感情の熱を持っているからだが、だからといって理不尽な行いもなにもかも、黙って許すような甘えた関係ではけして無い。 それでも言わない俺は狡いのだと思う。 そして結局許してしまう嶋本はやはり甘いのかも知れない。 抱き締めて「すまん」と言ったら、胸に溜め息の気配がした。 お前が、 「あついのが、悪い」 「また、…っとにもー」 昼間と同じ台詞で言い訳をして、効きすぎるエアコンに冷え始めた嶋本を抱き締め直す。 腕の中の小柄な体が、擦り寄るように動いた。 隊長が俺を好きだっていう百倍は俺のほうが隊長を好きです。 そんなことを言われたことがあるけれど。 どちらがより好きかなんてことは、実はあまり意味がないんだ。 どちらもこれ以上ないくらい想っていれば、意味がないだろう。 勝負をつけるなら、 イロコイは先に惚れたほうが負けだと誰か言っていた。 まったくその通りだ。 なら少なくとも負けたのは俺だし、勝ったのはお前だ。 でも 勝ち負けも もう どうでもいいことだから。 忘れていた。 お前がいるからそれで。いてくれるなら、それでいいのだ。 いっそ、攫っていってしまおうか。海の向こうまで。 「アホなこと言わんでください」 ………怒られた。 ★ねったいナイト☆ 夜な夜な集まる人の群れ 深い闇に今こそ 火を灯せ 砂漠包み込む乱れた呼吸 月を背に踊ろうよ 一晩中 重なり合って 手を取り合って 感じたままに声に出して もう喉カラカラだから 明日を待ってられないカラダ 向かう先は そうさあの宮殿 聞こえるどこからか皆の宴 ページェント 夜通しさらけだせ レペゼンこの熱帯夜 さぁ歌え 何かを待つのもういいから 勝ち負けなんてもういいから 始まりはこの夜から 髪なびかして腰ふれ 華麗に舞って感じ合え 始まりはこの夜から 途方にくれて歩いたら Oh 目の前に大きな影 立ち止まり周り見渡せば Oh 地を這うよ冷たい風 今宵と君に乾杯 踊りたんない まだまだずっと君としゃべりたい トキはとまんない 今日という日はもうこないYO 向かう先は そうさあの宮殿 聞こえるどこからか皆の宴 ページェント 夜通しさらけだせ レペゼンこの熱帯夜 さぁ歌え 何かを待つのもういいから 勝ち負けなんてもういいから 始まりはこの夜から 髪なびかして腰ふれ 華麗に舞って感じ合え 始まりはこの夜から >>>蛇足 うぁぁ、もうね、言い訳、とかしませんほんと…(泣) エロ逃げたとかエロ逃げたとかエロ逃げたとか…!! ………あれ、黒くないな…。結局うちのサナーダは可愛い男なんですよ、きっと。 この時点でインドネシアの話、打診はあったんだという捏造設定で読んでやってください…。 うへへへへ。… す ん ま せ … ! 当初の予定を大きく外れる話に…。書いてるうちにだんだんとインドネシアが頭から離れなくなったんだものぉぉぉぉ!! |