ビーチdeさなしま 2 「準備できたみたいやな。ヨーイ・・・テ!!」 「タカミツ、とりあえずまっすぐじゃっ。木が生えとるから気ぃつけえ!」 「まっすぐ!!りょうか・・・・ぐおっ」 ゴンッ 鈍い音がして、佐藤が木にぶつかった。 「慌て過ぎだ。障害物が多いスタート地点で飛ばしすぎるのはよくない。佐藤・大羽は失格。周囲の状況を把握しておかないと、現場では通用しないぞ。要改善だ」 「いたた・・・。はい、申し訳ありませんでした!以後十分気をつけますであります!!」 「("以後"はなしで頼むぞ…?)タカミツ、ワシの誘導も悪かった。・・・じゃが、失格してくれて正直助かった。公衆の面前で恥をかくのは勘弁じゃからの…(小声)」 「ああ…。わざと失敗したわけじゃないが、俺もパインを割るのはどうかと思ってたんだ・・。これでよかったんだよな…?(小声)」 「二人とも何をこそこそ喋っとんじゃ!失格者は腕立て300回や!!次、神林・石井組!用意はええか!?ちゃっちゃと終わらすぞ!」 ヨーイ・・・テ!! 「早せんね兵悟君!!軍曹チームに負けられんばい!そのまままっすぐ5歩、右2歩先障害物注意。」 「まっすぐ了解、右障害物了解!」 まばらに生えている木々をふらつきながらも避けていく。 「神林・石井は問題ありと聞いていたが、なかなか上手くいってるんじゃないか?」 「たしかに訓練やったらいいコンビなんすけど・・・、もしこれが現場だとしたら・・・・。いや・・なんでもないです・・・・」 レジャー中に重い空気を醸し出しはじめた上司二人に、大羽が恐る恐る声をかけた。 「あのぅ…お話中申し訳ないんじゃが、兵悟がスイカに到達しましたよ」 「そうか。上手く割れるか見に行こう」 トタトタと四人で林を抜けると、ちょうどスイカが割れたところだった。 「やったー!一発で当たったよメグル君!!」 「オイが誘導したっちゃけん当たり前ばい。さっ。兵悟君さっさと食いーよ」 「(少しは誉めてくれてもいいじゃん、メグル君てば…。)わかったよ。あーん。」 目隠しをしたままの神林が大口を開けた。 「・・・?兵悟君なんばしよっと?」 「なにって…誘導者が食べさせるってルールじゃん。早くしてよメグル君。タイムロスしちゃうよ」 神林の言葉に、石井が後ずさる。 「げー!なんきしょいこと言いよっと!?なんでオイが男に『はい、あーんv』げなせないかんと・・」 「石井、それがルールだぞ。失格するか?」 「ううう…真田隊長の命令なら仕方ないばい…」 涙目になりながら、石井は砂上に飛び散った果実を拾い上げ、神林の口元に運んだ。 ぱくっ 果肉と共に石井の指も、口内に入ってしまった。 「んぎゃーーーー!!オイの白魚のような指は、恵子たんと真田隊長だけのもんばーい!!!!」 泣きながら走り去る石井に気づいたのか、神林が目隠しを取る。 「ちょっとー。俺だって好きで指まで食べたわけじゃないってば!どこ行くんだよメグルくーん!!」 海に向かって疾走する二人を呆然と見送りながら、真田がつぶやいた。 「たしかにまだ未完成のバディのようだな。途中で勝負を投げ出すとはけしからん」 「・・・バディとかそういう問題じゃないと思うんじゃが…」 「そうだよな。俺だって野郎の口に指を突っ込みたくないぞ」 「そないなことはどうでもええんや。石井のやつ、機長も隊長もお前のもんやないぞ…。あとで覚えとれよ・・・?」 話題の二人は波打ち際に到達し、言い争いを始めたようだ。 「もう飽きたぞ、このパターン」とバッサリ切り捨て、残された四人はスタート地点に戻るのであった。 「ヒヨコは全滅っすね。もう俺たちが出る幕ないんやないですか隊長?」 「誰もゴールできないとは、トッキューの沽券に関わる。3隊の面子にかけて記録を作るぞ」 「(記録…?まさか来年から恒例行事になるんやないやろな。まさかな…。)わかりました!ヒヨコどもにほんまのトッキュー隊員魂を見せ付けたりましょ!!」 「(別に見せんでもええんじゃが・・・)」 「(同感だ。軍曹は常識人かと思ってたけど、真田隊長が絡むと人が変わるな)」 「大羽、タイム計測を頼む」 「はい!軍曹から出発ですね。いきますよ?ヨーイ・・・テ!!」 「嶋本、まっすぐ一歩、右一歩左二歩に障害物。次前に3歩、左右4歩注意」 「了解。障害物確認。回避ヨシ!」 目隠しをしているとは思えないほど難なく林を抜けていく。それも最短コースを軽々と。 「さすが・・・としか言いようがないな」 「ほうじゃのう。ホビット軍曹も口だけやなかったんじゃな。兵悟たちのタイムなんぞ比べ物にならん」 タイムを確認している間に、隊長・副隊長コンビはスイカ地点に到達していた。 「早ェェェェェ!!うわっ、もう割った!」 「まじでか!?じゃがこれからが問題じゃぞ。果肉に砂がつきまくっとるからの・・・・ええええええぇ!!!?砂ごとツッこんどるぞ!?」 砂も種も関係なく、真田が嶋本の口に放りこんでいる。 「急げ嶋本。噛まずに飲みこめ」 「むぐぐ・・・たいひょー、ふなはけはかんにんし(たいちょー、砂だけは堪忍し)・・・ガリッ。じゃりじゃりしとる〜(泣)」 鬼だ・・・・。鬼軍曹より鬼だ・・・・。佐藤と大羽は遠くから見つめるだけで精一杯だった。 「砂くらいなんだ。汁が垂れてるぞ」 無茶苦茶に押しこんでいるため、嶋本の口元は果汁でベトベトになっている。 ペロリ。真田が嶋本の口元を舐め取った。 「!?!?やっ、たいちょ何やって・・・んっ・・・んん・・・」 残さず完食するルールだ。 真田は無表情のまま顔中を舐めまくる。 「真田隊長…犬みたいじゃ・・。??タカミツ、どうしたんじゃ?」 「ぐ、軍曹の舌が・・・ハフハフ・・・赤い舌がちろちろ出てる。ハフハフ」 見ようによっては舌を絡めているようにも解釈できる。が、誰が何と言おうとこれはただのレジャーだ。スイカ割りだ。 「タカミツお前なに興奮しとるんじゃ・・・・って!!お前までどこ行くんじゃーー!!??」 股間を押さえながら海に向かって走っていく佐藤。大羽は置いてきぼりをくってしまった・・・。 タカミツのやつ〜!ワシだってこがぁなことしたないんじゃ!!じゃが、タイム計っとかんと真田隊長が『もう一度やる』って言い出しそうじゃし…。我慢じゃ大羽廣隆!瀬戸内根性の見せどころじゃ!! 大羽の心境などつゆ知らず、一玉完食した嶋本が目隠しを真田に渡した。 「うえっぷ…。一玉丸々はきついっす。隊長、準備ええですか?」 「ああ。いいタイムが出せそうだ。よっ・・と」 身軽な動作で逆立ちをする真田を確認し、復路出発。 覚悟しとったけど、お客さんの視線が痛いわ〜。 海の家は大盛況。ゆえに客がわんさかいる。その店の前を、逆立ちで横切る成人男子・・・。目立たないわけがない。 「ママー、あのおじちゃんはなんで逆立ちしてるの〜?」「しっ!見ちゃいけません!!」的セリフが聞こえてきそうだ。皆、遠巻きに見つめている。 あかん、もう耐えられへん。はよ終わらせな! 「ストップです、隊長!イカ焼き買いますんでその場で待機お願いします!!」 「了解。嶋本、ソフトクリームも買ってくれ」 息一つ乱していない真田が嶋本を見上げて注文をつける。目隠しをしているから顔は見えないが、おそらく普段通り真顔で言っているのだろう。 「(ソフトも追加すか。これ以上俺を辱めんでほしいんですけど…。)味は何がいいっすか?」 「ソフトクリームといえばミックスだ。バニラとチョコの二つの味が楽しめる方がお徳な感じがする」 真田隊長はソフトが好きなんじゃ!!しかもミックスについて熱く語っとる。あんな公衆の面前で、逆立ちのまま堂々と!!! ワシももう限界じゃーー!!あの人の連れだと他のお客さんにバレるのは恥ずかしすぎるんじゃーー!!! ぽとり。ストップウォッチを足元に落とし、最後の砦だった大羽も海に向かってダッシュ。そして(ヒヨコは)誰もいなくなった・・・・。 「そんまままっすぐ5歩!・・・・・よっしゃゴール!!・・・・・だよな?なんでヒヨコがおらんねや」 数々の難題を乗り越えゴールしたさなしまチームを迎えたものは、砂上に落ちているストップウォッチのみ。 「まあまあのタイムだな」 目隠しを取った真田がストップウォッチを拾い上げて読み上げる。額にうっすら汗を滲ませているだけで、息はほとんど乱れていない。 「おらー!チンカスどもどこ行ったんや〜〜!?・・・肉眼で確認できる範囲にはおりませんね。隊長、どうします?」 探すのめんどいんすけど・・・。 指示を仰ぐ嶋本からソフトクリームを受け取り、真田が応える。 「とりあえず食おう。ヒヨコ隊も子どもじゃないんだから、放っておいても大丈夫だろう。お前は過保護すぎるぞ」 「あのカスどもに毎日苦労させられとる俺の身にもなってくださいよ〜。ピヨピヨしてて、目ぇ離しとったら何しでかすかわからへんのですから…」 「『ピヨピヨする』とは具体的にどのような行為を指すんだ。オフの時くらいヒヨコのことは忘れろ。せっかく今日は二人きりだと思っていたのに…」 拗ねとんの隊長? 砂浜にどっかり腰を下ろしソフトクリーム(ミックス)を舐めている真田を見下ろし、嶋本は頬を赤くした。 隊長も二人きりがええって思っとったんや…。なんや嬉しいわ。まさかこの悲惨なスイカ割りはヒヨコを追い出すための口実やったんか? ・・・んなわけないな。勝負中の隊長の顔、ものごっつマジやったもん。 羞恥プレイ勝負終了に気づいたヒヨコが舞い戻ってくるまでの10分間、短い幸せをかみ締める嶋本だった。 終わり☆ >>>おまけ ぐあぁあぁあぁあああああー!!(吼えるな渋谷) まだだよみんな!まだつづきがあるんだよすごいんだから! |