あかき おびえの くちづけに、 ひたと みふるふ ひとせつな。 がたん、と。 「…!!」 勢いを支えきれずによろけた躰が、嶋本の机にぶつかった。 驚きの形のまま開いた唇に舌を差し入れる。 頤を掴み、腰を掻き抱き、 おもうさま内側を蹂躙する侵入者に、 しかし あるじは何も言わない。 「う…、っ」 呼吸までも吸い上げてなお、かつえる蛇のように這い回る。 歯列を、下唇の中を、上顎の奥を、…逃げようともしない舌を。 何度も 何度も 何度も 何度も 飽くることなく 恐れることもなく。 やがて息苦しさに胸を押し戻そうとする腕が、 ほんの少し侵入者を退ける。 離れきる前に下唇を ぞろ、と舐めると、 初めて 小さな体が 震えた。 がり 「 火を圧したような痛みに、その体が反射で竦む。 下唇の左側から、じわりと赤いものが滲んだ。 中指の腹で傷に触れると、緩く眉を顰める。 そのまま真横に指を滑らせると、滲んだばかりの血が紅を刷くように唇にのった。 ふ、と口の端を上げて笑う。 「似合わないな」 「当たり前です」 女じゃあるまいし。 吐き捨てて、拭おうとする腕を、掴んだ。 強い光の目が、正面から俺を捕らえる。 受け入れざる目が。けれど、抗わぬ躰が。 ゆっくりと貌を近づければ まるで命を懸けた戦いのような、 「女と、ちゃいますから」 そこに否定はあっても、拒絶はないのだ。 だから、狂う。惑う。 本当はどちらが踏み出したのか。 「そうだな」 震えたくせに。 熱を、持ってしまったくせに。 「だが、噛んでみたいと思うのも、」 乾きかけた血の紅を舌でなぞる。 「くちづけたいと思うのも、…この唇だけだ」 あいたたたたっっ 冒頭と文末は、北原白秋の「接吻の時」より。大好きな詩人なのです。 しごとさぼってしょくばでかいちゃった |