休憩室の奥で 差し入れにもらったアイスが山ほど入った袋をがさごそと広げながら、兵悟は入り口近くの椅子に座っている嶋本に声をかけた。

「嶋本さーん、どれにします?」

「う○こアイス」

「軍曹汚かー。なんでソフトクリームって言えんとですかー」

「やかましわチンカス」

おいは皮に昇格しとるとー と、ちーさな声で訴えるメグルをいっそ気持ちいいほど無視して、タカミツが持ってきたソフトクリームのふたを外す。

「なんか久しぶりやなコレ喰うの。その場でひねり出すんと違てちょい固めで好きやねん」

「軍曹は固いのがお好き、…と」

ぼそっと呟いた大羽の顔面に外したふたがクリーンヒットした。


*******


小柄な体に似合って顔も小さい嶋本が持つと、普通のソフトクリームが大きく見える。

熱に空気が揺らぐような室内で、それは早くも柔らかくなり始めてしまった。

「うわ、溶けんの早っ」

慌てて指に垂れかかったアイスを舐め取る。


おおお…


満遍なく下から上へソフトクリームを舐めている嶋本を離れて見ていたひよこ達は、なんとなぁく変な気分になってしまった。

溶けてくるのにイライラするのか眉を顰めてるのも、なんか、…イイ(笑)

いつもとおんなじしかめっ面のはずなのに。

「軍曹の舌使い、エロか〜」

あ、そうか、舌だ。そのせいかー。なんて残りのひよこ達が納得していると、静かに爆弾発言が。

「おいもあんな風に舐められたかとよ」

 ※↑あくまで小声です。

「なっ何言ってんのメグル君っっ」

「うん分かる」

「星野くんまでーっっ」

 ※くどいですが小声です。

無言で頷く大羽とタカミツに至っては心なしか顔が赤い。

つーかオマエもだ兵悟。


*******


ひよこ達が脳内でいろんなフィルターのかかった妄想(願望?)を展開させていると、基地長室に報告を済ませた真田が入ってきた。

「嶋本」

「ぶば」

べちゃ。

後ろから突然声をかけられてびっくりした嶋本が、奇声とともにソフトクリームに顔を突っ込む。

「…すまん」

「〜たいちょぉぉ、気配消して後ろ立たんといてくださいよ〜」

頬やら口の周りやらをソフトクリームまみれにして、情けない顔で真田を見上げると、体温で溶けたそれが顎を伝って制服に落ちた。

「わ、やば、」

慌てて手の甲で顎を拭う。

「うわ、べとべとや。はよ拭かんと」

テーブルの上にあった布巾を手に制服についた汚れをたたく。

「シマ、ここにもついている」

「あっ、すんません隊長。や、自分で出来ますから」

片手を溶けかけのソフトクリームで塞がれて四苦八苦する嶋本を見かねて、真田が手を出した。

嶋本の頬や口元でとろりと溶けたソフトクリームを指で拭ってやる様が、また妙に卑猥だ。

「………」

呆けたまま二人を見つめるひよこ達。完全密閉二人の世界展開中。

メグルがぼそりと呟いた。

「…エロか〜…」

どっちが?

聞きたいが残りのひよこ達だってそれどころではない。

はっきり言って釘付け。なんか見ちゃいけないものを見てる気分だ。

でもなんか眼福…とか思ってしまうのがまた嫌だ。


*******


ちらと真田の目がこちらを見た。メグルは視線が繋がってしまって、心の中でちょっとたじろぐ。

こちらを見たまま真田は指についたソフトクリームを舐め取った。

「おっ…とぉ」

嫌なもん見たばい。

そのとき彼の口元には確かに笑み。

にやり、と形容するのが相応しすぎる口元だけの笑み。

「く、」

目はもちろん冷酷無比なマシンのまま。

「黒か〜…」

いやーな汗が出るメグルだった。


さっきの台詞 聞かれてたと?


んなわけはないのだ。だってメグルは部屋の奥。嶋本は入り口近くで。更に真田はその後ろから入ってきた。

嶋本に聞こえないものが聞こえるはずないではないか。

けど確かに真田の目は、メグルを見たのだ。そして笑った。


牽制、されたとね


ち、と舌打ちしてみるが、真田隊長に喧嘩売ってまでの願望かどうかは疑わしい。

本命は真田さんやもん、と声には出さず言ってみたものの、ちょっと悔しい。













あまいあまいアイスクリーム

だれにも、あげないよ。







※メグシマではございません。
メグは噛ませ犬です。←ひどっ…
実はこの後が本番なのです(ニヤ)